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日本の貯蔵・加工技術が拓くアフリカの食料安全保障:収穫後損失削減とバリューチェーン強化の視点

Tags: 食料安全保障, ポストハーベスト, 貯蔵技術, 加工技術, アフリカ開発

アフリカの食料安全保障における収穫後損失(PHL)の課題

アフリカ地域における食料安全保障の確保は、依然として国際社会の喫緊の課題の一つです。飢餓人口の増加に加え、気候変動や紛争などの複合的な要因が食料システムに脆弱性をもたらしています。このような状況において、収穫後損失(Post-Harvest Loss: PHL)の削減は、食料安全保障を強化するための喫緊の課題として認識されています。

アフリカでは、収穫された食料作物のうち、品質の低下や物理的な損失により、平均して約15〜20%(穀物では最大40%とも)が市場に届く前に失われていると推計されています。この損失は、農家の収入減少、市場での食料価格の高騰、そして消費者レベルでの食料不足に直結し、栄養改善の取り組みにも悪影響を及ぼしています。損失の主な原因としては、不適切な貯蔵施設、輸送インフラの未整備、加工技術の不足、市場へのアクセス制約などが挙げられます。

日本の貯蔵・加工技術が貢献する可能性

このような課題に対し、日本が長年にわたり培ってきた先進的な貯蔵・加工技術は、アフリカの食料安全保障に多大な貢献をもたらす可能性を秘めています。単に生産量を増やすだけでなく、既存の食料資源を最大限に活用し、持続可能な食料システムを構築するための重要な鍵となります。

1. 高効率な貯蔵技術

日本の貯蔵技術は、穀物や野菜・果物の品質保持、カビや害虫による被害の抑制に特長があります。 * 改良型貯蔵庫・サイロ: 従来の貯蔵庫に比べ、湿度・温度管理、通気性、防虫性を高めた貯蔵施設は、穀物などの長期保存を可能にします。特に、電力インフラが未整備な地域でも運用可能な簡易な改良型貯蔵袋や、ソーラーパネルを活用した小規模冷蔵・貯蔵システムなども開発されています。 * MA(Modified Atmosphere)包装技術: 作物に応じた酸素・二酸化炭素濃度を保つことで、呼吸を抑制し鮮度を長期間保つ技術は、輸送中の品質劣化を大幅に軽減し、より広範囲への市場供給を可能にします。

2. 付加価値を高める加工技術

収穫された農産物を加工することで、保存期間を延ばし、多様な製品を生み出し、食料の付加価値を高めることができます。 * 小型・省エネ型加工機械: 精米機、製粉機、脱穀機、果物加工機など、小規模農家や地域コミュニティでも導入しやすい、操作が簡易でエネルギー効率の高い加工機械は、現地の加工産業の振興に貢献します。これにより、農産物の商品化を促進し、農家の収入向上に繋がります。 * 乾燥・衛生管理技術: 天日乾燥を効率化する技術や、衛生的な環境で加工を行うための設備、食品の安全性確保のための品質管理技術は、食中毒のリスクを低減し、製品の信頼性を高めます。

3. 技術導入がもたらす多角的な影響

これらの技術導入は、単に損失を減らすだけでなく、以下のような社会的・経済的・環境的な好影響をもたらします。 * 農家の収入安定と向上: 損失が減り、品質が保たれることで、農家はより多くの収穫物を高い価格で販売できるようになります。加工による付加価値化は、新たな収入源を生み出します。 * 市場の安定化と食料アクセスの改善: 供給が安定することで、市場での価格変動が抑制され、消費者がより安定して食料にアクセスできるようになります。 * 栄養改善: PHL削減は、特に栄養価の高い作物(果物、野菜など)の利用可能性を高め、地域住民の栄養状態の改善に寄与します。 * 資源の効率的利用と環境負荷の低減: 廃棄される食料が減ることで、生産に投入された水、土地、エネルギーなどの資源の無駄が削減され、環境負荷の低減にも繋がります。 * 雇用創出: 加工産業やサプライチェーンにおける新たな雇用機会が創出され、地域経済の活性化に貢献します。

現場での導入・運用における課題と解決策

日本の貯蔵・加工技術の導入には大きな潜在性がある一方で、アフリカの現場環境に合わせた慎重なアプローチが求められます。

課題:

解決策とアプローチ:

持続可能な食料安全保障への展望

日本の貯蔵・加工技術は、アフリカの食料安全保障を強化し、持続可能な食料システムを構築するための強力なツールとなり得ます。しかし、その貢献を最大限に引き出すためには、単なる技術の提供に留まらず、現地の多様なニーズや環境を深く理解し、それらに合わせた「共創」のアプローチが不可欠です。

国際NGOのプログラム担当者、研究者、政策立案者、企業担当者の皆様が、日本の技術とアフリカの現場を結びつけ、具体的なプロジェクトを推進することで、収穫後損失の削減を通じた食料安全保障の強化に大きく貢献できると確信しております。今後も、技術と現地の知恵が融合し、共に持続可能な未来を築いていくための協力関係が、より一層深化していくことが期待されます。